| がんになるということ | |
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がんに関連した遺伝子の突然変異ができるかどうか、そして数多く蓄積するかどうかが問題です。 私たちが生きている間にはこれらの作用が絶え間なく遺伝子に働いています。たいていは修復されて問題なく終わるのですが、問題になることもあります。 ここでは、一般の発がん物質の作用とがんについて生物学的な詳細なしくみを見てみましょう。 |
参照 「放射線の影響はあなたしだい」 第2章<発がん物質の攻撃> 第3章<がん防御機能> 「放射線の害はあなたしだいでゼロになる!」 第4章<がんになるのも防ぐのも個性的> 第5章<発がんのからくり> |
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突然変異が1個できるかどうかが問題 細胞にはいろいろな発がん物質(飲食物やたばこをはじめとする日常生活からの発がん物質と細胞内の活性酸素)が、入れ替わり立ち代り次々と、あるいは一緒に重複して間断なく作用しています。しかし、ひとつひとつの発がん物質の作用が継続していると考えることができるので、あるひとつの発がん物質の作用に関連した生物学的なできごとを考えてみましょう。 まず、細胞内で発生した、あるいは外来の発がん物質の種類によって、細胞内の抗酸化物質や、抗酸化酵素、解毒酵素などが消去に働き、かなり減少させることができるでしょう。捕捉されない発がん物質は遺伝子を攻撃し、遺伝子は数多くの傷を負うことになります。たいていの場合、それらの傷は種々のDNA修復酵素によってすべて修復されます。 |
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これが基本ですが、何事も完全ということはなく、たまに修復が不完全になります。 不完全の内容とは、様々なミスや修復不能などです(参照⇒)。不完全な修復が発生した場合には、その細胞が死ぬか、傷が突然変異になります。 |
参照 「放射線の影響はあなたしだい」 第2章p36−43「突然変異はどうしてできるのか?」 |
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ここではひとつの発がん物質による作用に注目していますが、このようなことが起こっている間にもその細胞、その遺伝子にはおそらく他の発がん物質の攻撃も絶え間なく続いているでしょうし、その細胞じたいも、たとえば細胞分裂や周りの細胞社会との相互作用など様々な作用が働いています。 そのようないろいろな作用が遺伝子の傷の修復を不完全にする方向に働くこともあります。 |
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| つまり、被ばくした細胞の遺伝子がそれによって突然変異になるかどうかは、ひとつの発がん物質とその細胞だけで考えても意味がなく、その他のあらゆる作用を考えなければならないのです。ひとつの発がん物質による作用だけを取り出して考えることじたいがあまり意味のないことです。 | 参照 「放射線の害はあなたしだいでゼロになる!」 第5章<発がんのからくり> |
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発がん物質の作用というとき、これらのことを総合して、その発がん物質の作用が最終的に突然変異という形で細胞に残るかどうかで考えることになります。 被ばく後のDNA修復や細胞分裂や細胞死など、遺伝子の傷が突然変異になるかどうかに関与する一連のできごとが終わって決着がつくまでには、おそらく1〜2日くらいではないかと思われます(修復されないまま遺伝子の傷が次の細胞分裂までそのまま残ることもあるかもしれないが、たいていはこのようにいえるでしょう) こうしてある特定の発がん物質の1回の作用の全体が終わります。 たとえば、焼肉のコゲの中の変性たんぱく質や過酸化脂質が大腸の細胞に作用するときにはこのように考えることができます。食べてから、消化吸収を含めて、2日くらいで終わるでしょう。たばこ1本をすったときの発がん物質の食道の細胞に対する作用も同様に考えることができます。 問題は、それが突然変異という結果になるかどうかです。 あと一歩のところでかろうじて突然変異にならなかった場合は、その発がん物質の作用はゼロだと言っていいでしょう。 0.5個の突然変異というものはなく、必ず1個または0個です。これが重要なところで、どんな発がん物質の作用も、突然変異を1個作ってはじめて作用として現われるので、それ以下では作用はないことになります。つまり、発がん物質もあるところまでは作用はないのです。 発がん物質の量に対して作用が連続的ではなく、階段を1段上がる(突然変異が1個できる)までは、作用はゼロです。したがって、発がん物質の1回ごとの作用に関して言えば、生物学的なメカニズムからは”しきい値”があると言っていいでしょう。防御機能があることと、突然変異ができない限りがんには結びつかないこと、が理由です。 そこで、しきい値論者は、このメカニズムから発がん物質の量のしきい値があるはずだと主張するのですが、しかし、発がん物質の量がどれくらいまでなら防御できるかは、発がん物しだい、防御機能の働きしだい、状況しだい、タイミングしだい、です。 つまり、メカニズムの上からは、個人ではしきい値はあるものの、その値はひとそれぞれですから、集団全体のしきい値はあるのかないのか分かりません。 しきい値の議論は、防御機能で発がん物質の作用が“完全に”消去されるかどうか、と議論されがちですが、防御機能によって突然変異1個以下のレベルに抑えることができるかどうか、が本当の生物学的内容なのです。完全に消去できなくても突然変異にならないレベルに抑えることができればいいのです。 私たちが発がん物質を食べたり受けたりすると、そのつど細胞の中ではこのような決定が下されているのですが、日常生活では様々な発がん物質に次々さらされるため、それぞれの作用がオーバーラップし、個々の作用として切り離すことはできません。 たとえば、ミトコンドリアからの活性酸素は常に細胞内に発生し遺伝子にも作用しています。また、薬物やこげなどもまた作用します。 それらの作用が同じ遺伝子の近い場所に起こらないとも限りません。それによってそれぞれの傷が近傍に発生し、修復を困難にすることもあるでしょう。 また、放射線や性ホルモンなどは細胞分裂のスイッチを入れる作用があり、これらがさらに加わると、遺伝子の傷の修復にミスが起こりがちであり、突然変異ができやすいでしょう。現実には確かにこのようなことが起こっているのですが、私たちにはそれを測定することはできません。 |
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V. 生物学的根拠「被ばくの影響の現われ方(被ばく影響チャート)」の図3にこの様子が詳細に述べられています。 作用の大きさが突然変異1個分を超えるなら、それは1個として記録され、1個分未満ならその作用は現実にはゼロとなります。 私たちの生活は発がん物質でできているといってもいいくらいにいろいろな作用を受けているので、ひとつひとつを矢印で表すことはできないのですが、概念的には図のように考えることができます。 実際の生活ではこのような矢印を無数に描き続けることになります。一生のあいだ四六時中、生活におけるあらゆる発がん物質、発がん作用に関して同様の攻防があり、矢印が描かれてゆき、あるとき1個分より大きい矢印が描かれて突然変異が1個でき、記録される。それは消えません。 こうして、長年の間に少しずつ突然変異が蓄積してゆくのです。 |
⇒V.生物学的根拠 <被ばく影響の現われ方> |
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がんになるということ このような蓄積の結果、突然変異が15個を超えた人から、がんになってゆきます(⇒「がんになるには10数個の突然変異が必要」参照)。 |
⇒V. 生物学的根拠 <がんになるには10数個の突然変異が必要> |
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それがいつなのかは人それぞれですし、一生そうならない人も半数近くいます。 矢印が1個分を超えるかどうかは、発がん物質の量や強さの問題であり、防御の働き、細胞の状況、タイミングなどによってそのつど決定されます。それが15個分であるから、その人が一生の間にどんな発がん物質や発がん作用をどんな量、どんなタイミングで受けるのか、それに対して防御機能がどれだけ有効に抑制できるかで、1個を超える矢印の蓄積するペースが決まるのです。人それぞれなのです。 こうして、みんなそれぞれのペース(”がんペース”)で突然変異ができてゆきますが、そのペースを決めるのは、発がん物質や発がん作用と防御機能のバランスです。 発がん物質が多くても、防御が強ければ、結果としての突然変異ができるペースはそれほど速くないかもしれない。逆に発がん物質の少なそうな生活でも防御が弱いなら、ペースは速くなる可能性もあります。 この突然変異の蓄積は私たちの体のすべての細胞で起こっていることは間違いありません。しかし、がんになるかどうかという観点からは、突然変異の数がもっとも多い細胞に注目しなければなりません。もちろんそれがどこの細胞なのかは分からないのですが、私たちひとり残らず、体にはがん候補細胞とも呼ぶべき細胞が数多くあるのは間違いありません。 さらに、体の中では一生の間に1個だけがん細胞が出現するわけではありません。 頻繁にそのようながん候補細胞は出現しているにもかかわらず、半数ががんにならずに、また、がんになるとしても、たいてい一生のうち1回です。この理由は、多くのがん候補細胞が発生してしまうにもかかわらず、ほぼすべてがん免疫機能によって消去されるからです。(「がん免疫」参照) がん細胞には免疫監視に見つからない能力も必要です。 それを可能にするための突然変異もこの15個の中には含めて考えるので、15個というのは、このような最後の防御機能からも逃げおおせて、最終的にがんが完成するのに必要なという意味を含めた数だと考えてください。 私たちの体にはこのようなコースを描いて、突然変異を蓄積しつつあるがん候補細胞がいくつもあり、それぞれのコースをがんに向かっているというのが、事実でしょう。 しかし、結局、男性の半数ではそれらの細胞のいずれも15個に到達することはないか、到達するまえに消去されているのです。残りの半数では、ほとんどの候補細胞が消去されながらも、その中で1個だけが逃げおおせて、がんを完成させるのです。 私たちが突然変異の蓄積というときには、そのようながん候補細胞の中で最後にがんにまで到達することになる1個の細胞のことであり、ペースというときはその細胞の突然変異の増えるペースのことです。 現在の科学技術では検出や測定ができないために、すべて想像の目で見ることになるのですが、空想ではなく生物学的な事実として現実に起こっていることなのです。 |
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| がんペース | ⇒V.生物学的根拠 <被ばく影響の現われ方> |
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このペースを図示してみました。 |
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時間(年齢)にともなって、突然変異が増えてゆく様子がわかるでしょう。 重要なのはコースの傾き(突然変異の蓄積する速度)です。これは何度も言うように、人それぞれ違っています。それぞれの生活習慣や個人の生物学的な状況で突然変異ができるペース(=がんペース、突然変異の発生ペース)、つまりコースの線の傾きがきまるのです。 突然変異が15個を超えるとがんになります。何歳でがんになるかは人それぞれです。また、これは将来も含めた突然変異のできるペースの想像図ですから、その年齢になるまでに他の理由で死亡すれば、そこで終わります。私たちが現在いくつの突然変異を持っているのか分からないだけで、このような生物学的現象が現実に私たちの細胞の遺伝子に起こっていることは確かです。 私たちの生活はそう変わるものではありません。 したがって、それぞれの人生のこのペース=傾きはそう簡単には変わらないでしょう。 そこで、たいていの場合“これまでと同じように”これから先の人生を生きてゆき、“このまま行くと”そうなるようなペースで突然変異が増えてゆくことになります。 私たちはがんのことを遠い将来のくじのように考えがちです。 漠然とした不安のイメージはありながらも現実性がなかなかつかめないでいます。そのせいでくじ引きや運のように考えてしまいます。 がんに関する情報は豊富で、がんを促進しそうな生活やまた遠ざけそうな生活というものを聞かされてはいるのですが、現実性がありません。おそらくその一番の理由は、私たちの遺伝子に何らかの変化が起こってしまっているということの現実性がないからでしょう。 一度できた突然変異は消えません。 私たちの体には現実に突然変異が数多く蓄積している細胞が無数にあり、それらの細胞をこの先も使い続けていかなければなりません。もうできてしまっている突然変異はどうしようもありません。 このことの現実性は、1/2〜1/3くらいの人が現実にがんになるという事実からは実感できないでしょう。 むしろ、喫煙者のうちの7割くらいの人では、正常そうに見える気管支上皮細胞で特定のがん遺伝子のLOH(Loss of heterogeneity ヘテロ接合性の消失。その遺伝子が二つとも失われているということで遺伝子の突然変異の一つのパターン)が検出されるという事実の方が、現実的です。 その人々ではそのがん抑制遺伝子はもう機能しません。つまりがんに必要な突然変異ができているのです。まだ、がんの何歩も手前かもしれませんが、着実に近づいているのです。気管支上皮細胞のデータというのは、健常人から検体を採取できるのは気管支までという理由に過ぎません。肺内部の細胞では間違いなく同様のことが起こっているでしょう。 突然変異は現実なのです。 一度できた突然変異は消えません。 しかし、私たち生物の体は、本来使い捨ての鎧のようなものです。 傷だらけになりながらも子孫を残すまで何とか命を維持するためのカプセルで、本来は子孫を残した後はもうどうでもいいものです。体というのはそのためのものでした。しかし、現代では、子孫を残した後も幸せな時間をすごしたいという欲張りな考え方が当たり前になってしまったために、がんなどの病気が大きな問題になっているのです。 それでも体の本来の役割りは変わっていません。使い捨てのカプセルです。 これまでは“子孫を残すまで”という時間スケールでしたが、現代では“90歳まで”に延びたというに過ぎません。つまり80〜90歳まで何とか持てば、それでいいのです。 突然変異がひとつふたつ増えても、最終的にがんになってしまわなければそれでいいのです。できてしまった突然変異を悔やむ必要はありません。幸せに人生を終えるまで15個にならないようにすればいいのです。 |
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