| 日常生活が被ばくのリスクを決める | |
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放射線の発がん影響は、日常生活によって決まる 日常生活がほとんどのがんの主要な原因です。 ここでは、何ががんペースを左右しているのか、私たちはどれくらいがんを減らすことができるのかを考えてみましょう。 がんペースというのは、突然変異が蓄積してゆくペースのことですが、私たちの体の中の将来がんになるかもしれない細胞の突然変異を測定することはできません。しかし、突然変異の蓄積の結果であるがんの発生を見ることで、突然変異の蓄積、つまりがんペースを間接的に知ることができます。なぜなら、がんの発生や死亡を増加させる因子ががんペースを速める因子だからです。 1.日常生活ががんの原因 1)生活習慣ががんを決定する 発がん作用がある物質や因子を並べると、長いリストが出来上がるでしょう。私たちの日常生活は、発がん物質と発がん因子で満たされていると言っても過言ではありません。 いろいろな発がん物質に関する調査があります。特に喫煙に関する調査は多く、喫煙者と禁煙者の比較から影響がわかります。喫煙は人間のがんの発生に圧倒的な影響を及ぼしているため、明らかな結果が得られています。その他の発がん物質や、野菜、果物、運動などのがんを抑制する作用の調査もありますが、影響が検出されるとしてもそれほど大きなものではありません。日常生活全体で見ると、発がん物質や発がん因子は多すぎるのです。 しかしここでは、そのような発がん物質のリストを示すことが目的ではありません。私たちの日常生活は、都会風の生活田舎風の生活、日本風欧米風の生活、どんな生活であれさまざまな因子がセットになって構成されているため、現実性という意味では、個々の因子ではなく、生活全体で考える必要があります。 日常生活、生活習慣ががんの原因であるということをはっきりと示しているデータを見てみましょう。 @ 日本人の部位ごとのがんの変遷(図) 全般的にがんが増加する傾向が見られますが、特徴的なのは、胃がんの減少です。胃がんはかつての日本の国民病です。塩分の多い食事が原因なのですが、戦後の欧米化した食生活によって激減しました。しかし、その欧米化した食事とライフスタイルは、一方で特有のがんの増加をもたらすことになりました。 大腸がん、肺がんなどは欧米人に多いがんであり、また女性の乳がんや男性の前立腺がんなどもまた欧米に特徴的です。このようながんの部位には生活習慣が強く反映されています。そしてそれらのがんが生活の変化に伴って日本に入ってきました。 これを単なるがんの部位の構成の変化として見るなら、日本人の生活が欧米化したということでしかないのですが、それぞれのがんに注目すると、生活の中の何かの習慣の変化によってこれだけ増えるということがわかりますし、逆に、変化させればこれだけ減らすことができるということを示しているのです。 |
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一般に、ひとつひとつの発がん物質をなくすことや防御機能を高めることで得られるがん抑制効果はなかなか顕著には現れません。がんを抑制する方向に作用していることは間違いなくても、それがデータとして現れるのはなかなか難しいことが多いのです。現れたとしても、それほどインパクトがあるわけではありません。理由は、私たちの日常生活はあまりに多くの発がん因子や防御因子で成り立っているために、ひとつひとつに注目しても、その作用は相対的に小さいということでしょう。ちょうどひとつのサプリメントを摂ってもその効果はたやすく現れるものではないというのと同じです。生活全体で考える必要があります。 さらに、いくつかの危険因子を努力して減らすことは可能ですが、知られていない数多くの因子が作用していることは間違いありませんので、その意味でも生活全体がある方向に変わることが自然であり理想的ながん対策となります。 たとえば、女性の乳がんは、日本ではほとんど見られなかったものですが、数十年前からの生活の欧米化にしたがって、急激に増加してきました。乳がんの主要な原因は女性ホルモンの作用ですが、栄養や脂肪過多の食生活、子供の早熟、都会風のライフスタイル、初産年齢の高齢化、出産回数の減少などが直接間接に決定的な影響を及ぼしています。このような内容を考えると、何か一つ二つに注目しても仕方ないことは容易に想像できます。つまり、生活全体が変わる必要があるのです。 |
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私たち日本人に急激に増加しつつあるほとんどのがんに関して、同様なことがいえるでしょう。どんなタイプの生活でも、それなりのバランスが成り立っています。あるタイプの生活の一部を無理に変えても努力の割りに効果はないでしょう。生活全体をがんを減らす方向に向けることが可能なら、その効果は相当のものだろうと想像できます。 実際にそのような生活を実践している場合もあり、そこには変化の影響が顕著に現われているのです。 2)生活全体で考える必要がある @ 日本人のがんの罹患率(死亡率)の変遷 日本人のがん死亡率の変化を示した図に明らかなように、かつてはがんで死亡する人は、現在に比べて、男性では1/4、女性では1/2.7です。最も大きな要因は食生活をはじめとする生活習慣の変化ですが、その他にも社会や環境を含めて人をとりまくあらゆる因子が大きく変化してこのような結果を生み出していることは間違いありません。 ここでがん死亡を左右しているものは、遺伝的因子、生活や環境の因子です。日本人として遺伝的には基本的には変化していませんので、この結果は生活上の因子が反映されていると考えられます。 |
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このような図は、がん死亡の時代変遷としてみるなら、それほど印象深くないかもしれませんが、日常生活や環境の変化によってがん死亡がどのように変化するかというテーマで、国民全体という大きな集団を被験者にしておこなった実験として見るなら、この結果は非常にインパクトがあるでしょう。日本式の生活はもともとがんを起こさせる因子が少ないと言えますが、それでも生活の変化によって3〜4倍ものがん死亡の違いに結びつくという証拠です。これは、もしかつての生活に戻ることができれば、がんによる死亡を1/3〜1/4までに減らすことができるということでもあります。 しかし、生活は全体で考えなければなりません。現在の生活の“全体”というのは、もはや地球規模の全体という意味なので、日本だけ、あるいは自分だけで昔の生活をすることはできません。“かつての生活に戻る”というのは、非現実的だといえます。 3)モルモン教徒のデータ 次に示すのは、もっと小さな集団で、さらに因子が明確になるような実験をおこなった場合の結果です。もちろん企画された実際の実験ではありませんが、そのように見ることができます。 アメリカ合衆国ユタ州にモルモン教徒の集団が生活しています。非常に規律正しい生活を信条としている宗派であり、集落による小さなコミュニティーを形成して共同生活に近い生活を送っています。 1925年に初めてこの集団の人々のがん死亡率が低いことが報告され、その後全米平均の約半分であることが明らかになり、一躍有名になりました。そこで、専門家によるいろいろな調査が行われた結果、遺伝的には普通のアメリカ人と同じで特別な人々ではないこと、日常の生活習慣の違いががん死亡率の違いに結びついていることが明らかになりました。一言でいうと、普通の人でも生活習慣によってがんは半分になる、ということです。
その後の詳しい調査によって明らかになったさらに興味深いことは、この宗教集団の人々の中でも、位が高い人々、つまり教義に忠実でより規律正しい生活を送っている人々の場合には、さらにがん死亡率が低いということです。 上のデータは、モルモン教徒全体の平均です。つまり、中にはこの生活を厳しく守る人も、それほどでない人もいます。そこで、この生活を厳しく守るかどうかでがん死亡に違いがあるのかどうかが調べられました。結果は、教義の遵守の厳しさ(階位)とがん死亡率には明確な逆の相関が見られました。つまり、階位が高く生活の規律がもっとも厳しい人々では、さらに低いがん死亡率となったのです。
この図は、それぞれの部位のがん死亡率を、教義に忠実な度合いで3段階に分類して比較しています。 いくつかのがん(大腸がん、直腸がん、肝臓がん)以外のすべてのがんで、教義に忠実な人々ではがん死亡率が大きく低下しています。これらの効果の2/3は禁煙による効果だと考えられています。残りの1/3は教義に沿った生活がもたらす効果だと言えます。 さて、これらのがん死亡率の劇的な低下の原因は、モルモン教の教義である日常の生活習慣が鍵だということですが、その内容を見てみましょう。
この内容の生活になぜこれだけのがん抑制効果があるのでしょうか。 現時点で明らかになっている生物学的な知見からこの事実を考えてみましょう。 現在禁煙によって、肺がんを筆頭に体の多くのがんの20〜30%は減らせるだろうと見積もられています。 大量飲酒しないのも消化器系や肝臓のがんを減らすでしょう(適量の場合には問題ありません)。 栄養バランスのいい食生活は、防御機能を含めとにかくすべての健全な機能の基本であることは言うまでもありません。 運動は、特に大腸がんを減らし、免疫機能を活性化してがんを抑制する方向に働きます。 現代社会から隔離されたような環境の自然の中のコミュニティーでの穏やかな生活は、ストレスを減らし、環境の発がん物質も少なく、その他様々な良い作用を及ぼすのは間違いありません。 教育程度が高いと健康意識も高いでしょう。 早い年齢からの多産は、女性の乳がんの可能性を大きく減少させることは科学的事実として確立されています。このように、がんの発生を減少させるような方向に働くものばかりなのです。 おそらく喫煙の影響が最も顕著だろうと考えられますが、私たちが喫煙しないというだけではこのような結果にはなりません。他の項目の様々な因子との協働的な作用によってこれだけのがん死亡率の低下が可能になったと考えられます。これらのデータは、日常生活ががんを左右するというより、むしろ日常生活ががんを作り出しているということを示していますし、それは意識や努力でコントロールできるものであることを示しているのです。そしてそれは“私たちにとって実現可能”な範囲にあるということなのです。つまり、夢のサプリメントや、不可能な努力や、膨大な資金は必要ないのです。 地域的な生活習慣の違い しかし、先に述べたように、現在の地球規模のスケールになってしまった生活においては、モルモン教徒の生活は必ずしも現実的だとはいえないでしょう。これは、特殊な集団で可能であった生活の結果の一例と見るべきなのですが、重要なのは、日常生活によってこれだけのがんのコントロールが可能であるということなのです。 また、モルモン教徒のデータは、アメリカ合衆国の中のある限られた地域で特有の生活をする人々のデータだと見ることもできます。 そのような観点からは、アメリカでも日本でも地域によってそれぞれに特有の生活があるので、全国の地域の住民に関して同じような調査をすることができるでしょう。日本でも同様のことが考えられますので、日本の地域でのがん発生率の違いを見てみましょう。 図は、2006年の国民動態調査における全国の都道府県別のがん死亡率です。全国平均の261(人/10万人)をはさんで高い県から低い県が並んでおり、沖縄県(185)では全国平均の70%で最も低くなっています。沖縄県は寿命が長いことで有名ですが、がんも少なく、伝統的な沖縄の生活には健康に良い因子があるようです。しかし、がん死亡率は確かに低いですが、モルモン教徒のデータに比べれば、驚くほどの低さではありません。 |
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この理由は、意図的な生活習慣の構成があるかどうかだと思われます。 国民の動態調査が示しているのは、明確な意図なく行われている生活習慣の影響です。一方モルモン教徒の場合は、「意図的に健康を意識した生活」の結果です。生活全体がその方向に構成されており、階位によるがん死亡のさらなる低下に見られるように、効果の大きさは努力しだいということです。沖縄ではたまたま伝統的な生活が健康に良かったのでしょう。しかし、1950年時の日本人の77(人/10万人)という数値を見ると、沖縄とは言え、やはり現代社会の不健康の波に飲まれているといえます。 2.放射線発がんに対する日常生活の影響 原爆被爆者の調査の中には、被ばくした人々の日常生活ががんなりやすさにどのように関係しているのかを調査したデータがあります。これらは、被ばくによる発がんに日常生活がどのように影響するかを見ることのできる数少ないデータです。 @ 原爆被爆者の肺がん発症に対する喫煙の影響 Pierce DA, Sharp GB, Mabuchi K. Joint effects of radiation and smoking on lung cancer risk among atomic bomb survivors.Radiat Res. 2003 Apr;159(4):511-20. 被爆者の中で、喫煙者の肺がん発症率は、非喫煙者の発生率より高いということが分かりました。被ばくした人がその後の生活で喫煙するとそれだけがんになる可能性が高くなるようです。このことは、被ばくした人がその後喫煙を止めると、がんの可能性は低下することを意味します。 A 原爆生存者のがん死亡における食生活の影響 Sauvaget C, Kasagi F, Waldren CA. Dietary factors and cancer mortality among atomic-bomb survivors. Mutat Res. 2004 Jul 13;551(1-2):145-52. 野菜や果物を毎日摂取する人は、週1回以下の人よりがん死亡率が13%も低いということが分かっています。同じく、被爆者の中で、その後の生活で十分に野菜と果物を摂取した人は、がん死亡率が10数%も低下しているという結果が得られました。 B 原爆被爆者の膀胱がんの発症と野菜と果物の摂取 Nagano J, Kono S, Preston DL, Moriwaki H, Sharp GB, Koyama K, Mabuchi K. Bladder-cancer incidence in relation to vegetable and fruit consumption: a prospective study of atomic-bomb survivors. Int J Cancer. 2000 Apr 1;86(1):132-8. 被爆者の中で、その後の日常生活で野菜や果物を週に2〜4回以上あるいは毎日摂取した人は、週1回以下の人に比べて、膀胱がんの発生率は54〜62%に低下しているという結果が得られました。 これら結果を、検査の被ばくに当てはめて考えてみましょう。 原爆被爆者の場合には、被ばく線量の範囲は広く、被ばくによるがんリスクはあります。そのようながんリスクにおいて野菜や果物は抑制効果があるという結果になっています。 一方、検査の被ばくは、この原爆被爆者の場合とは異なり、リスクはないといってもいい線量です。したがって、検査の被ばくの場合には、原爆被爆者の場合より、禁煙や野菜果物の摂取は、はるかに効果的にがんを抑制するだろうと考えられます。 原爆被爆者で喫煙者の場合には被ばくのリスクの上に喫煙によるリスクがプラスされました。言い換えると、「被ばくして、その後喫煙しない人」は「被ばくして、その後喫煙する人」よりリスクが低いことを示しています。 検査を受けた人の場合も同様のことが言えるでしょう。 その後の人生で喫煙すると、喫煙のリスクがプラスされますが、逆に、検査を受けた喫煙者がその後禁煙することで、がんの可能性が大きく低下すると言えるのです。 また、被爆しても野菜や果物をよく食べる人は、膀胱がんのなりやすさやいろいろながん全体による死亡の可能性が低下しました。同様に、検査で被ばくした人もその後の人生で野菜や果物をよく食べるようにすれば、がんになる可能性が低下することは間違いないでしょう。 これらの調査は、喫煙や野菜・果物の影響に関するものですが、他の日常生活のいろいろな因子の影響も考えることができます。 日常生活は数限りない発がん物質やがんを防御するもので成り立っているため、数字にならなくても体の中で現実に作用していることはメカニズムの上からも間違いありません。 これらの結果は、被ばくしてもその後の生活をよい方向に向ける努力は、必ず報いられるということを示しています。 多くのがんの原因が日常生活の中にあるというのは、今では科学的事実です。原因を取り除けばそのがんの可能性は大きく低下するということは確かなのです。 私たちが知りたいのは、“普通の”人々の生活を基準にして、その中の何を変えることができるか、そしてそれによってどのようにがんの可能性を低下させることができるかです。 したがって、特別な発がん物質を摂取した場合の影響ではなく、一般の人々が送る通常の日常生活の一部を変えることでどのようながん抑制効果があるのかを知ることが重要なのです。通常の日常生活とは言え、私たちの現代生活は発がん物質や発がん因子で満たされているために、改善の余地は大いにあるはずなのです。 重要なのは、特別なことをおこなうのでなく、私たちが日常生活の中で抵抗なく実現可能であるということです。その場合にのみ現実的な抑制効果に結びつくのです。 |
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