低線量被ばくとがんの生物学




低線量被ばくとがんの生物学 目次

I. はじめに
II. 低線量放射線に発がん影響はあるのか?
 1.科学的事実
 2.こういうことにしておこう
 3.問われたことのない大前提
III. 放射線発がんの生物学
 1.生物学の現実性
 2.がんの生物学
  1)がん発生のメカニズム
   a) 突然変異
   b) がん防御機能
  2)がんになるということ,“がんペース”
 3.放射線の影響
  1)放射線の作用
  2)被ばくによってがんになるという意味
  3)放射線の発がん影響
   a) 発がん影響を左右するもの
   b) 発がん影響の個人差
 4.生物学的な個人リスク
  1)個人の本当のリスク
  2)被ばくリスクはなくすことができる
  3)がんペースを遅くするには?
   a) 日常生活ががんの発生を決めている
   b) 被ばくの影響を差し引く
IV.被ばくの先の現実の問題
 
I.はじめに
 私たちが知りたいのは、
 「いま受けた検査の放射線でがんになる可能性はありますか?」
 「これまで何回も検査を受けてきたのですが、がんや白血病になりやすいですか?」
という質問に対する答えです。

 このような質問にどう答えますか?
 あなたの持っている参考書では、「放射線被ばくによるがんは確率的影響だから、被ばく線量に比例して、がん死亡率は増加する」「白血病も、しきい値の存在しない線量反応関係を仮定せざるをえない」などと書かれ、線量からがん死亡の可能性を計算する公式が示されています。
 そこで、患者の受けた線量を公式に当てはめて、白血病による死亡の可能性を計算し、こう言います。
 「今回の胸部CTで20ミリグレイ受けました。骨髄線量では5~6ミリグレイになりますので、計算では、あなたが将来白血病になって死亡する可能性は0.0025%になります。これは4万人に1人という確率ですから、小さい可能性ですよ。」
■  ■
 あなたは、“白血病で死ぬかもしれないが、可能性は非常に小さい”ことを強調するでしょうが、患者は、“可能性は非常に小さいが、白血病で死ぬかも知れない”と理解します。他の原因で白血病になる可能性の方がはるかに大きいといったところで無駄でしょう。他の原因で白血病になるという実感はありませんが、放射線検査は現実に受けたわけですから。検査は自分の体のどこかの遺伝子に傷害を与えてしまった、あとはそれががんにならないよう祈るだけだと考えてしまいます。つまり、いかに小さくても、可能性がある限り同じことなのです。
 この「小さいけれど、可能性はある」という考え方は、 医療だけでなくあらゆる分野の放射線の恐怖の根底にあります。例えば原子力発電所の周辺に暮らす人々には、日常的に受けている放射線による害がいつか出てこないか、後の世代に出てこないか、という漠然とした不安があります。現実に受けているかもしれない線量は、検査の線量に比べれば、年間でも1000分の1以下なのですが、そんな数値は問題ではありません。小さくても可能性があるのなら、同じなのです。患者や住民が理性的でないというわけではありません。
 このように、放射線による害(発がん)は、どんなに小さくても“必ずある”ということが前提となっています。
 本当に放射線の害は必ずあるのでしょうか?

II. 低線量放射線に発がん影響はあるのか?
1.科学的事実

 「仕事や医療検査で受ける少しの放射線で、がんになることがあるか?」

 何十年もの間、議論され続けてきたテーマです。
 この答えを得るために数多くの調査(疫学調査)や研究が行われてきました。(⇒「放射線の影響はあなたしだい」疫学データ参照)。
参照
「放射線の影響はあなたしだい」
 第2部
 これまで行われた人間の調査では、仕事の被ばく(原子力・核関連施設従業員や放射線診療従事者の調査データ)では、全体として見ればがんになる可能性が高くなるという結果はほとんど得られていません。しかし、被ばく線量の高い従事者に限れば、がんが増加している場合も少なくありません。
 そこで、問題は、どれくらいの線量以上ならがんが増加するのか、ということになるのですが、現時点では明確な結論は出ていません。

 しかし、このような調査は規模の大きさが重要で、少ない線量の影響を見るにはより大きな規模の調査が必要になります。
 私たち人類が使うことのできるデータは、それほど多くありません。そして、「III. 科学的事実」で述べた原爆生存者のデータが現時点で最も信頼のできる最も規模の大きなデータなのです。
III. 科学的事実
  
 さらに「II.医療被ばくの影響」で述べたように、病院の検査で使うX線の影響を考えるときには、この原爆のデータが、実は最も現実的な情報を与えてくれるのです。
II. 医療被ばくの影響
  

 それらのデータから言えることは、数十mGy以下の被ばくによる影響に関して確実なことは分からないということです。つまり、検査被ばくで問題になる線量の被ばく影響があるかどうかは、厳密にはわからないのです

 動物実験も行われていますが、寿命や感受性が違いすぎるため、線量などの量的な問題で人間への影響を知るという意味では参考にはなりません。そもそも検査や仕事と同じくらいの被ばくをさせる実験自体が不可能に近いでしょう。また、放射線で遺伝子が傷つくとか、突然変異ができるとかの基礎実験は、”人が実際にがんになるかどうか”ということを判定する根拠にはなりません。
 これが科学的な事実です。
 私たち人間への影響を知る手段は、人間の調査しかありません。そこで、このような限られた人間の調査データを中心に、少しの放射線に発がん影響はあるのかを考えることになります。

2.こういうことにしておこう
 科学的な事実という意味では、低線量(数十mGy以下)では発がん影響があるかどうか分からないというところからスタートすればいいのですが、現実には、それほど簡単ではありません。
 放射線は社会の至る所で用いられてきました。放射線は使い方によっては害の可能性がありますので、いろいろな決まり(放射線防護体系と基準)をつくらなければなりません。その内容を提案するのが ICRP です。
 被ばくの影響をもとに規制するのですから、影響があるかどうか分からない、では困ります。そこでICRPでは、まず「どんな線量でも必ず害があることにし」、次に「直線仮説を採用して影響の大きさの公式を作る」ことにしました。各国はそれに従って行政的に管理します。科学的事実からかなり離れてしまっていますが、社会や行政とはそんなものだ、と理解できます。

 中にはこの取り決めに文句をいう人々がいます。
 この決め方は勝手すぎるとして、ある線量までは害はないはずだという「しきい値説」、少しならむしろ体に良いという「放射線ホルミシス説」、最近では反対に、直線仮説よりもっと害は大きいかも知れないとする意見まで現れる始末です。現実のデータからは結論が出ないからこそ好きなことが言えるわけです。
 ちょうど国境を決めるのに、地質学的におかしい、文化人類学的におかしい、と言っているようなものです。放射線の影響が生物学だから何か科学に発言権があるように勘違いしていますが、政治における科学の位置づけを誤解しているようです。
 医療被ばくにおける放射線防護や直線仮説については、それぞれ詳細な議論をおこなっていますので、ごらんください。

I. 放射線診療と医療従事者の役割り

IV. 解説
 <疫学データはなぜ直線的か?>
  
 私たちがなすべきことは、生物学的な本当のリスクを求め、それを患者に伝えることです。
 直線仮説に基づいた放射線防護の考え方は社会に浸透していますし、医療被ばくに関する書籍などによって数々の間違いが広められていますので、状況の把握と頭の整理から始めなければなりません。

参照
「放射線の害はあなたしだいでゼロになる!」
 第1章<ひっくり返すよ>
3.問われたことのない大前提
 これまで言われ書かれてきた医療被ばくリスクの、どこがおかしいのか、そして真実は何か、を考えましょう。
 私たちが知りたいのは、ある線量を被ばくした場合にどんな結果になるか(がんになるかどうか)ですが、直線仮説を含めていろいろな仮説(「いろいろな仮説」参照)が主張し議論してきたのは公式の形です。この問題の解決を“公式の形”でおこなおうとしてきました。(図参照)
 被ばくリスクはもともと放射線防護の問題でしたので、放射線被害の行政的な管理という意味では、公式が重要なのです。
 すべての事案を公式にあてはめて、ポンと被害の大きさが計算できなければなりません。例えば100mSvを被ばくした場合のリスク係数という値があり、補正が必要なこともありますが、基本的にひとつの公式ですべての人の放射線の影響を計算します。これまでの被ばくリスクの議論は、”まず公式ありき”で始まっているのです。医療被ばくにおける患者のリスクも同様です。
 誰であっても、どんな被ばくをしても、被ばく線量を公式に当てはめれば、がんになって死亡する可能性が計算できます。逆に言えば、同じ線量を受けるとすべての人が同じ結果になるということになります。つまり、「影響はすべての人で同じ」ということ、そして、「がんの発生や死亡は線量の大きさだけで決まる」ということを大前提としているのです。

⇒V.生物学的根拠
 <個人の生物学的ながんリスクとは?>


 専門家の間で議論されてきた被ばくリスクの「放射線の発がん影響はすべての人でまったく同じ」「がんになるかどうかを決めるのは線量だけ」という大前提は、問題にされたことはおろか前提条件になっていると認識されたことさえありません。もちろん科学的に正しい前提かどうかは検討されたこともありません。
 低線量被ばくリスクの現状は、科学的に結論のでないことに対して、放射線防護ではこうだと決めつけてしまい、他の連中がそれはおかしいと議論されているのですが、そもそも生物学的に正しいかどうか分からない前提のもとにおこなわれているこれらすべての議論は、生物学的には全く無意味なものかも知れないのです。
 私たちが知りたい「被ばくすると本当にがんになる可能性が高くなるのかどうか?」の答えに到達するには、前提となっている「放射線の発がん影響はすべての人でまったく同じ」なのか、「がんになるかどうかを決めるのは線量だけ」なのか、から考え直していかなければなりません。

III. 放射線発がんの生物学
1.生物学の現実性
 この地球上で生きる私たち生物の体は自己完結しているのではなく、外界からの作用と応答で成り立っています。
  気温が上がれば体温調節しますし、糖分が入ってくれば、エネルギーにしたり、代謝してため込んだりする。花粉やウイルスが鼻や喉の粘膜にくっつけば、免疫機能が排除しようとするし、遺伝子が傷ついたら、修理しようとする。
 外からどんなものが来ようと、どんなことが起ころうと、それに対して応答し、対処する。これが基本の仕組みですが、その対処の仕方、応答の程度は全ての人で同じでしょうか?
参照
「放射線の害はあなたしだいでゼロになる!」
 第3章<個性はどこから?>
 花粉症になる可能性はすべての人で同じかと言えば、そんなことはないと誰でもわかります。
 花粉症になりやすい体質は確かにあり、いくつもの遺伝子の微妙な違いが、花粉症のなりやすさに関係していることが明らかになっています。これに加えて、もちろん日常生活の影響は言うまでもありません。一方、糖尿病のような代表的な生活習慣病でも、生活習慣だけでなく、実はいくつかの遺伝子の微妙な違いが大きく影響していることも明らかになっています。こうした個人の日常生活と個人の遺伝子の影響の結果として、ひとりひとりが病気になるかどうかが決まることになるのです)。つまり結果は違ってくるのです。

 では、放射線はどうでしょうか?
 同じ放射線検査を受ける人々には、元気ではつらつとしている人もいれば、過労と心労で消耗し切っている人もいます。
 喫煙せず健康に気を遣った生活をしている人も、ヘビースモーカーで大酒飲みもいます。
 食生活もピンからキリまでです。この人は十分な栄養をとっているだろうか、細胞内のグルタチオンの量は十分だろうか、この人のDNA修復酵素の活性は人並みだろうか、弱い方ではないだろうか、免疫機能も前向きで楽観的なタイプの人とまじめ過ぎて悲観的なタイプの人ではかなり違いがあることは確かなんだが・・・などなど、実際にひとりひとりの人間をみているあなたには疑問が浮かんでくるはずです。
 こんないろいろなことが放射線の作用に影響しないのでしょうか?
 放射線の影響は、「被ばく線量」だけで決まってしまい、どんな人でも同じ結果になる、というほど単純な話なのでしょうか。

2.がんの生物学
1)がん発生のメカニズム
 a) 突然変異
 がんは、一つの細胞の中にある、細胞分裂をコントロールするたんぱく質や、悪性化を可能にするたんぱく質など、合計で数種類以上のたんぱく質の異常によって起こると考えられています。
 たんぱく質に異常が起こるのは、それらの遺伝子や関連した遺伝子(がん遺伝子とがん抑制遺伝子と呼ばれるふたつのグループの遺伝子)(*がん遺伝子とがん抑制遺伝子)の突然変異が原因です。したがって、がんになるには突然変異の数としては10数個くらいが必要になるでしょう。
⇒V.生物学的根拠
 <がんになるには10数個の突然変異
  が必要>


 一つの細胞でこのように多数の突然変異ができる(蓄積する)のには何十年もかかります。突然変異が増えるにしたがって、細胞はしだいに変化し、ある程度になると変化が目で見えるようになり、いろいろな段階の腫瘍やがんとして診断されます。 参照
「放射線の影響はあなたしだい」
 第2章p32 大腸がんの進展
 遺伝子に突然変異を作って最終的にがん細胞を生み出すものを発がん物質と呼びます。
 たばこを筆頭に、アルコール、肉などの焦げ、動物性の脂肪、汚染物質、薬物、紫外線、そして放射線などが代表的な発がん物質で、現代生活は無数の発がん物質で成り立っていると言っても過言ではありません。
 C型肝炎ウイルスやH・ピロリ菌なども新しいタイプの発がん物質と言えます。中でも細胞内で発生する活性酸素は、一番基本的な発がん物質と言っていいでしょう。


 発がん物質は、直接遺伝子に傷をつけて突然変異を作るもの、それを促進するもの、その他の作用で突然変異の蓄積を容易にするものなどさまざまで、どんな作用をしているのかすべて解明されているわけではありませんが、全員が協力して突然変異を増やしてゆくと考えられます。 (*発がん物質というと、遺伝子に傷をつけて突然変異を作るものと考えられがちですが、それは発がん物質の働きの一部です。それだけではがんはできません。
参照
「放射線の影響はあなたしだい」
 第2章p36−43 発がん物質の作用

 次に述べる防御機能によって、たいていは事なきを得ますが、たまにがん遺伝子やがん抑制遺伝子に突然変異ができてしまうことがあり、蓄積して10数個くらいになったところでがん細胞になります。わかりやすいように、以下では10数個を15個として話を進めます。

  b) がん防御機能
 細胞や生体はこのようながんの発生に甘んじているのではなく、発がん物質からがんになるまで、何段階もの防御機能が作動して、先に進ませないようにしています。
 しかし、これらはがん細胞の発生を抑制するために獲得した機能ではなく、進化の過程で個別に発達した諸機能ががん発生の各段階で抑制的に働いているに過ぎません。たとえば、下で述べる抗酸化物質や抗酸化酵素などの抗酸化的防御機能は、酸素を利用してエネルギーを得る好気性生物(細胞)の発生に伴って約20億年前以降に獲得されたものです。最初のDNA修復酵素は、RNAワールドからDNAワールドに転換した30数億年まえに出現し、その後細胞の進化に伴って、様々な種類が獲得されたものだと考えられます。
 また、突然変異が発生する可能性を低下させ、深刻な傷害を持つ細胞を除去するがん抑制たんぱく質(酵素)などは、”がん”と銘打っていますが、進化の中では、遺伝子の維持のために発達した機能性たんぱく質に過ぎないと考えられます。


 がん防御機能の具体的な内容は、
 1)発がん物質を無害化したり、捕捉したりする機能が備わっている。抗酸化酵素、抗酸化物質、解毒酵素などによって、体内で発生したり侵入してきたりする発がん物質が遺伝子に傷害を与えるのを未然に防ぐことができる。放射線が作り出す発がん物質はヒドロキシルラジカルだが、抗酸化物質グルタチオンなどが捕捉して消去できる。
参照
「放射線の影響はあなたしだい」
 第3章<がん防御機能>p48−51
 第1段階「発がん物質の消去」

 2)消去されなかったものは遺伝子に傷をつけることになるが、傷は各種DNA修復酵素によってほぼ完全に修復される。(修復困難な傷の場合には、突然変異になることがある)
参照
「放射線の影響はあなたしだい」
 第3章<がん防御機能>p52−55
 第2段階「被害の修理」

 3)傷が多すぎるか細胞分裂が起こりそうなときは、突然変異ができがちだが、p53が発現して修復酵素を補充し、細胞分裂を一旦停止して修復が完全に行われるように監督する。こうした措置が間に合わない時にはアポトーシスによって細胞ごと始末し、遺伝子の異常をもった細胞が残らないようにしている。
参照
「放射線の影響はあなたしだい」
 第3章<がん防御機能>p56−59
 第3段階「突然変異を作らせない」
 以上は、1個の突然変異ができるまでの”細胞内の防御”です。

 私たちの細胞は発がん物質でいっぱいですから、このような細胞内の攻防は、生きている間中続きます。常にこのような攻防が続けられ、何年かに一度くらい1個の突然変異ができてしまいます。14個目の突然変異がある細胞でも、もちろんこれらの攻防が四六時中繰り広げられ、あるとき負けてしまえば15個目ができてがんになる、何とか防御し続ければセーフとなるのです。

 さて、このような緻密な防御にもかかわらず、突然変異が増えてゆくのは避けられません。
 突然変異が蓄積してがん化の段階が進むと、細胞じたいに変化が生じ始め、いろいろな段階の腫瘍細胞になり、そして最後にがんになります。細胞に変化が現れるようになると、生体じたいが異常細胞と認識して”細胞社会の防御”防御が働きはじめます。
4)免疫細胞(キラーT細胞、NKT細胞、NK細胞など)が腫瘍細胞やがん細胞を認識して殺します。最後の砦である「がん免疫」です。


 突然変異が何個くらい蓄積すると免疫に認識される腫瘍細胞になるのかはっきりとは分かっていませんが、がんになってしまう前に、今度は免疫機能によって排除されるようになるのです。しかし、細胞によっては、このような攻防の間にも少しずつ突然変異を増やし続け、最終的にがん免疫でも排除できない悪性のがんになります。
参照
「放射線の影響はあなたしだい」
 第3章<がん防御機能>p60−62
 第4段階「がん細胞を殺す」がん免疫

 これら防御機能のどれが欠けてもがんは何倍にも増加することは、ノックアウトマウスをはじめ様々な動物実験により明らかです。私たちは、がんと言うとすぐに発がん物質を思い浮かべますが、それと同じくらい、あるいはそれ以上に重要なのが防御機能です。その働きでなんとか生きてゆけるというのが、私たちの本当の姿のようです。

2)がんになるということ,“がんペース”
 私たちの体のすべての細胞の遺伝子には突然変異ができていて、問題はその数です。
 私たちの半数近くが、人生が終わるまでにがんにかかります。がんになる人とならない人の違いは、体のどこかの細胞の突然変異が10数個になってしまうかどうかです。しかし、たいていの人ではこの数の突然変異が蓄積するには何十年もかかりますので、がんになるのは人生の後半以降なのです。

 どんな人のどんな細胞でも少しずつ突然変異が増えていくのですが、そのペースは細胞の種類によって違いますし、人によって違います。ペースが速い人は、人生の早い時期にどこかの細胞の一つががんになってしまうでしょう。反対にペースが遅い人は、他の理由(他の病気や事故)で人生が終わるまでがんにはならないでしょう。
 がんにならずに人生を終えた幸運な人でも、からだの細胞には多くの突然変異があったはずです。ただ、できるペースが少し遅いために、がん細胞にならなかっただけです。
 がんになるかどうかは、突然変異が増えるペースと、自分の人生の長さの問題なのです。長い人生を健康で生き延びたいなら、突然変異のペースを遅くしておかなければなりません。太く短い人生が希望なら、突然変異のことなど気にする必要はないでしょう。

   
 がんになる人とならない人の境は、微妙なものに違いありません。
 半数の人では、80歳を超える頃までに突然変異15個になってしまいますが、一方数多くの人々がぎりぎりの14個で人生を終えているはずです。14個と15個の違いは偶然に近いものがあるでしょう。もう少し生きながらえていたら、がんになっていたかも知れませんし、もう少し喫煙期間が長ければなっていたかも知れません。逆に残念ながらぎりぎりで15個になってしまった人も、寿命が終わるのが少し早ければがんにはならずに済んだでしょうし、もう少し生活に気をつけていればならずに済んだかも知れないのです。
 15個という境界線付近の事情は微妙であろうと想像できます。







⇒V. 生物学的根拠
 <がんになるという意味>


3.放射線の影響
1)放射線の作用
 低線量放射線の発がん作用には、いろいろなものがあります。
 誰もがすぐに思い浮かべるのは、遺伝子に傷害を与える、突然変異を作るということですが、その他にも、細胞分裂を促進する、遺伝子発現を促進する、細胞そのものに影響を与える、細胞環境に影響を与える、という作用などもあります。
 また、原爆生存者の調査からは、固形がんの場合、他の発がん物質によってできる突然変異ができやすくしているようであるとか、慢性的な炎症を引き起こすことで、がんに寄与しているとも考えられています。

 放射線の作用の詳細が分からないので、放射線の発がん影響を明確に説明できないと言われることがありますが、詳細なメカニズムが何であれ、重要なのは以下のことです。これらから、私たち個人が被ばくしたときの影響がどのようなものかは、明らかになっているのです。

@ がんには相当数(固形がんでは10数個)の突然変異が蓄積する必要がある。
A 放射線の作用が何であれ、放射線だけではがんはできない。日常の発がん物質の作用がなければ突然変異は蓄積できない。
B 被ばくが作用するのは、日常の発がん物質が作用している細胞であり、遺伝子である。特別なものはない。
放射線と日常の発がん作用が一緒にがん化を進める。つまり作用は”足し算的”である。
C 被ばくする人というのは、被ばくしなくても半数ががんになる”普通の人”である。つまり、その人のがんペースに沿ってすでに突然変異ができているし、これから先もできてゆく状況にある。

 これらは、従来の放射線生物学ではほとんど考慮されていません。そのために“現実の人間の生物学”としては発展しませんでした。
 理由は、従来の放射線生物学は、人間への現実の生物学的影響を研究するというよりは、放射線防護リスクの公式を作るためのデータを収集するのが目的だったために、現実のひとりひとりの人間のことを考慮する必要はなかったからです。

 上記4項目が意味するのは、
「放射線被ばくの発がん物質としての作用は、他の普通の発がん物質の作用から切り離して考えることはできない」
ということです。

 胃がんの発がん物質を考えるとき、塩分、アルコール、ニトロソ化合物そしてピロリ菌など“発がん物質全体の”発がん作用の結果と考えますが、それと同じ意味です。しかし、放射線は特別扱いされてきましたので、このことが理解しにくくなっています。
 放射線は他の発がん物質とは違い特に危険な発がん物質だ、放射線の傷は特別に危険だというのが、私たちが今日まで持ち続けている放射線の常識ですが、最近の報告によって、誤った思い込みでしかないことが示されています。

1) 「放射線は特別な発がん物質か?」
 放射線によって発生するヒドロキシルラジカルの作用が、放射線の生体作用の実体です。つまり放射線の作用は、細胞内で日常的に発生している活性酸素と同じ作用なのです。
 もし異なることがあるとすれば、放射線の場合、活性酸素が細胞内の至る所で発生できるということです。そして、放射線は完全発がん物質に近い作用があります。つまり、遺伝子の突然変異を起こすのに必要な作用を備えています。
 計算上では100ミリシーベルトの放射線でできるヒドロキシルラジカルは、生理的に発生しているヒドロキシルラジカルより数桁も少ないとされています。この見積もりの正確さには問題はありますが、それを割り引いても極めて少ないことは確かでしょう。
 細胞内のヒドロキシルラジカルを私たちは普通の発がん物質の一つとして扱ってきました。したがって、それと同じものを少しだけつくっているに過ぎない放射線は、普通の発がん物質のひとつでしかありません。

2) 「放射線の傷は特別か?」
 大量に(2〜3シーベルト以上)被ばくした場合には、危険であることはもちろんですが、低線量の被ばくの場合はどうでしょうか。
 放射線による遺伝子の傷害に関する最近の見解では、放射線の場合は、クラスター状に傷ができるため、他の発がん物質や活性酸素による傷害とは異なるとされていますが、しかし、結果として日常の放射線では、放射線を受けない場合にできる傷と同じ種類の傷しかできず、区別がつかないことも確かめられています。
 被ばくの影響は、細胞内で起きる傷害から何年もかかり何段階も経て、はるか先のがんになるかどうかということであり、遺伝子の傷害はがんになるかどうかを決定する作用のほんの一部しか占めていないことは明らかです。したがって、放射線の発がん作用は、多くの普通の発がん物質と同じようなものだと考えるべきでしょう。

2)被ばくによってがんになるという意味
 被ばくしなくても男性で約半分、女性で1/3ががんになるとは言え、誰も自分ががんになるとは考えていませんし、日常生活の発がん物質はあまりにも身近です。
 一方、放射線被ばくは、危険なものを体に受けたという意識がありますので、その影響がクローズアップされるのです。そのとき50%という膨大な可能性でかかる普通のがんのことなど頭にありません。

 しかし、低線量放射線は多くの発がん物質のひとつでしかありませんので、被ばくの影響があるとすれば「普通のがんの可能性を高める」ことです。たばこや飲酒と同じです。
 がんになった人を個人的に調べても被ばくの影響があるのかないのかわかりません。大腸がんを調べても焼肉の影響がわからないのと同じです。
 そこで、被ばくした集団と被ばくしない集団の比較をして、被ばくした集団でがんになった人数が多ければ、被ばくの影響が出ていると判断します。これも焼肉を週2回以上食べる集団とそうでない集団を比較するのと同じです。

 被ばく影響の疫学調査はこのような考え方でおこなわれています。集団全体として見ると被ばくの影響がある、と想像できても、誰に影響が出ているのかはわかりません。
 このようなデータから、「被ばくすると、集団の中で・・・がんになる人(がんで死亡する人)が・・・%増加する」という放射線防護の公式が作られるのですが、全体の中での割合しかわからないのです。
 行政的な目的ならこの程度で十分ですが、医療被ばくでは、目の前の患者個人についてわからないと意味がありません。
 生物学的には、どんな人に影響が出るのでしょうか?

   がんになる、がんが増加するというのは、ならないということを基準に考えています。したがって、被ばくによるがんの増加とは、「<がんにならないはずの人>が、被ばくしたために<がんになる人>のほうに移動して起こる増加」です。
 私たちが一番恐れるのはこのことではありませんか?被ばくのせいでそんなことが起こってしまう、と考えるから怖いのです。

 具体的には、
「被ばくしなければ14個で人生を終えることができた”はず”の人が、被ばくによって15個になり、がんになってしまった」
ということです。
 したがって、被ばくの影響を受ける可能性のある人は、境界線ぎりぎりで14個に留まっている人です。がんにならないはずの人の中で、一番がんになりそうな瀬戸際にいる人が、一番被ばくの影響が出やすいのです。
⇒V.生物学的根拠
 <被ばくによってがんになる
  という意味>


ここで、被ばくした時に影響が出やすい人の条件の一つ、がんスケール上の位置がわかりました、次に、もっと具体的に解明していきましょう。

3)放射線の発がん影響
 a) 発がん影響を左右するもの
 ある線量の被ばくをすると、どれくらいの作用になるのか、そしてその作用が最終的にその人をがんにしてしまうだけの影響を持つのか、を考えなければなりません。
 これまでの考え方では、同じ線量の被ばくをすると、どんな人にも同じ作用があり、結果も同じになるとされてきました。しかし、実際にはそれほど簡単ではありません。

 まず、被ばくした放射線の作用の大きさを見てみましょう。
 同じ線量を被ばくしても、実際に人が受ける作用の大きさは大きく異なっているのです。

1. 被ばくの作用の大きさ
 防御機能は、被ばくの作用がどの程度になるかを決めます。
 被ばくによって発生したヒドロキシルラジカルは細胞内の抗酸化物質(主としてグルタチオン、ビタミンC)によって捕捉されて無害化されます。
 抗酸化物質によって捕捉されないヒドロキシルラジカルが実際に遺伝子を攻撃します。したがって、これらの抗酸化物質の量によって実際に発がん作用(突然変異を増やすこと)に寄与するヒドロキシルラジカルの量が決まります。

 次に、ヒドロキシルラジカルによって遺伝子に傷ができたとしても、ほとんどがDNA修復酵素によって修復され、p53によって細胞ごと無害化されてしまいます。
 また、ヒドロキシルラジカルが他の作用によって突然変異を作るとしても、突然変異ができるかどうかは、他の発がん物質によって遺伝子に傷がどの程度できるのか、つまり他の発がん物質の量や質に大きく依存することになります。結果として、被ばくによるヒドロキシルラジカルが突然変異に寄与する(他の発がん物質と協力して作る)ことも、しないこともあります。

 さらに、被ばくが寄与して突然変異が1個できてしまって細胞が一歩がんに近づいたとしても、免疫機能によってその細胞が除去されれば、それで終わりです。被ばくの影響はなかったことになります。除去できなければ、突然変異が1個増えた細胞ができるということになります。

 したがって、防御機能によって被ばくそのものの作用がどれくらいになるかは、大きく違ってきます。これを被ばくの”作用”と呼びましょう。(これに対して、最終的にがんになるかどうかを被ばくの”影響”と呼びます。)それぞれの被ばくの作用は、被ばくにともなうできごとで、まだ結果には結びつきません。その作用の最終的な結果、つまり被ばくの影響は、次に述べる”がんスケール上の位置”が最終的に決めることになるのです。

2. 最終的ながんスケール上の位置
 ”がんペース”は、その人の人生全体の発がん物質と防御機能のバランスを示しています。
 被ばくした放射線の作用がどれくらいかは重要ですが、その人の人生において最終的にどれくらい突然変異が蓄積するかで、結果は全く異なってきます。最後にがんになるかどうかが問題なのです。

 ”被ばくの影響が出る”というのは、突然変異が1個できてしまい、その追加によって、「14個で終われたはずの人生がこのおかげで15個になってしまう」という場合です。
 たとえ1個できてしまっても、余裕があればがんにはならず、影響はないことになります。

 人生全体の総合点を表すがんスケール上の位置が、がんの可能性をほとんど支配しています。
 つまり、「放射線だけでは、結果は分からない」のです。たとえ被ばくの”作用”があったとしても、それが本当の”影響”(がんになるという結果)として現れるのは、ごく限られた場合だけなのです。

 検査や仕事の放射線くらいなら、日常の発がん物質に比べてあまりにも微力なためほとんど影響はなく、がんは放射線以外の日常生活で決まってしまいます。現実にどんなに調査しても、検査や仕事の放射線の発がん影響が見られないのも当然なのです。
 放射線の発がん影響は、あなたの日常の発がん物質とあなたの防御機能のたたかいの中で、普通は消えてしまいます。しかし防御能力が小さかったり、日常の発がん物質が多すぎたりすると、本当は消されているはずの影響が出てくるかもしれません。一方、防御に余裕があれば、少しくらい大きな線量を受けても簡単に害をうち消してしまえるでしょう。

 b) 発がん影響の個人差
 ではここで、従来の放射線リスクの本質的な問題、「放射線の影響はみんな同じか、それともひとりひとり違っているのか」を考えてみましょう。
 放射線被ばくの影響は、<その被ばくの作用の大きさ>(防御機能によって決まります)と、その作用が最終的にがんに結びつくかどうかを決める<がんスケール上の位置>によって決定されます。それぞれに関する個人差を考えてみましょう。

参照
「放射線の影響はあなたしだい」
 第3章p70−74 防御機能の個人差と個性
1. <被ばくの作用の大きさ>の個人差
 被ばくしたときの作用の大きさは、個人の防御機能と他の発がん物質の作用によって決まります。
 防御機能には、以下のような個人差があることが知られています。
@ 放射線が作るヒドロキシルラジカルを消去する抗酸化物質であるグルタチオンやビタミンCは、普通の人の間でも数倍の個人差がある。
A DNA修復酵素の活性にも数倍くらいの違いがある。
B がん細胞を殺すNK細胞の活性には、数倍以上の個人差がある。

 このように一般の健康な人々の間でも、それぞれの防御機能には大きな個人差があります。防御機能全体では、どれだけの個人差ができるのか分からないでしょう。つまり、同じ(線量の)被ばくをしても、被ばくの作用の大きさは、ひとりひとり大きく違っているのです。 個人の条件によって、ある人が20ミリシーベルトで受ける影響と他の人が100ミリシーベルトで受ける影響が同じくらいになってもおかしくないのです。
 放射線の発がん影響は、「日常生活や防御のいろいろな因子によって決まり」、「ひとりひとり違っている」ことは明らかです。

2. <がんスケール上の位置>の個人差
 これはそれぞれの人の過去の人生の日常生活によって決まってくるものです。言うまでもなく、人それぞれで、その結果、15個を超えたり超えなかったりして、がんになるかどうかが分かれます。そして、がんにならない人の中でもその位置はもちろん違います。まだ15個までには余裕のある人も、ぎりぎりで余裕のない人などいろいろです。

 どちらの因子もひとりひとり異なっていることは明らかです。
 したがって、二つの因子を組み合わせて決定される被ばくの影響は、当然ひとりひとり違い、同じ線量を被ばくしても、影響は全く違っているのです。そして、被ばくの影響(がん)が出る人というのはこの中の数少ない特定の人々なのです。
 詳細は、V. 生物学的根拠 <被ばくによってがんになるという意味>および<被ばく影響の現われ方(被ばく影響チャート)>をぜひごらんください。  

⇒V.生物学的根拠
 <被ばく影響の現われ方>



4.生物学的な個人リスク
1)個人の本当のリスク
 これらのことから明らかになった重要なことは、影響には個人差が大きいこと、そして影響が出るかどうかを決めているほとんどが「がんスケール」上の位置だということです。

 その理由は、たとえば100mGyの被ばくでも、突然変異の数で言うと(最悪を想像しても)1個の数十分の1くらいの作用しか発揮できないと見積もられるからです。つまり、影響が出るとしても14個の人にしか出ないし、14個の中でも、本当にぎりぎりのところにいる人、たとえば10000人なら、14個のあとがない”崖っぷち”に立っている最後の10人(なぜ10人なのか?全がんでは100人だが、個別のがんでは10人くらいという計算)くらいだということなのです。
 この人たちはそよ風が吹いても危ないでしょう。検査被ばくの影響とはその程度でしかなく、そのくらい危険ながん状況の人にしか影響は出ないということでもあるのです。

 同じ線量を被ばくしても、どの程度の大きさで作用するかは防御機能の問題で、ひとそれぞれです。
 しかし、その個人差がたとえ数倍、数十倍あったところで、危険があると考えられるのはやはり14個のところにいる人々であることは変わらないでしょう。100mGyくらいの被ばくで13個や12個の人がいきなり15個になることはありません。
 被ばくの影響が現れるかどうかは、私たちのがん状況ががんスケール上のどこに位置しているかです。

 残念ながらそれを知るすべはありません。
 しかし、14個の崖っぷちの10人くらいにならなければ被ばくの害は現れないのですから、もし被ばくの害を心配するなら、少し崖から離れる、あるいは突然変異の個数を減らしておけばいいのです。

2)被ばくリスクはなくすことができる
 重要なことは、このがんスケール上の位置は、私たちが生涯の最後に行き着く位置だということです。

 これからまだ何十年か生きて、発がん物質と防御機能の絶え間ない攻防の結果としての位置ですから、これから将来の突然変異のできかたには、まだいくらでも変更は可能です。なぜなら、それは私たちの日常生活の結果だからです。

 私たちががんに関してどこに行き着くのか、これから変更が可能だということが、一番重要な点です。
 検査などで被ばくして、たとえそのせいで突然変異ができたとしても、そしてそのために、そのままでは将来15個になってしまうだろうという場合でも、それを眺めている必要はありません。
 将来のがんペースを変化させることで、”そのままなら15個になってしまう”ところを”15個にはしない”ようにできるのです。

 被ばくの心配をする人は、まだがんになっていません。これから何十年も生きていかなければならないという状況にあります。つまり、これから将来にかけての未知の部分があるのです。そこで、過去の被ばくによって少し速められた分だけ、これからの人生で今度は少し遅くすれば、被ばくの影響はなかったことにできるのです。単純な足し算と引き算です。突然変異が途中で1個くらい足されても、後で1個を引いておけばいいわけです。
 途中でどんな足し引きがあっても、最後につじつまが合えば(被ばくしなかったのと同じ状態になれば)、それでいいのです。

3)がんペースを遅くするには?
  a) 日常生活ががんの発生を決めている
 これからの生活で突然変異ができてゆくペースを遅くすには、どうすればいいのでしょうか?その大きなヒントを与えてくれるいくつかの事実があります。
 私たち人間のがんは、毎日の普通の生活によって発生しています。DNAの複製に伴うさまざまな間違いや、ミトコンドリア呼吸に伴う活性酸素による遺伝子の傷害などは、言わば日常生活によってコントロールできない部分ですが、DNA修復の圧倒的大部分はこれら基本的生理現象に伴う間違いや傷害の修復のためにおこなわれます。
 しかし、実際に重要な遺伝子に危険な突然変異を作ってしまい、がんへの道を少しずつ押し進めるのは、実はこれらではなく、日常生活で受けるもの、取り込むもの、刺激されるもの、つまり日常生活の発がん物質なのです。
 地域や、環境、時代、ライフスタイルなどによって、どれだけがんの種類や発生頻度が変わるかを知れば、そのことが容易に納得できるでしょう。詳細は、「V.生物学的根拠」<日常生活が被ばくリスクを決める>をごらんください。

 ⇒V.生物学的根拠
<日常生活が被ばくリスク
  を決める>


  b) 被ばくの影響を差し引く
 日常生活から被ばくによって足された分を引いておけば、それで足し引きゼロになり、被ばくの影響は打ち消されたことになります。 日常生活から発がん作用を引くと言っても、何かあることをして一挙に引くことはできません。現実には、毎日の生活から小さな部分を引いてゆく(減らしてゆく)ということです。将来のがんペースを遅くするというのも、同じ意味です。
 私たちが毎日の生活を少し変化させることで、突然変異のできる頻度を減らし、がんペースを遅くすることができるのです。 100mGyの被ばくの影響を消すには、だいたい数ヶ月くらい発がん物質を少なくして、防御機能を高める生活をすればいい、と見積もることができますが、現実には、ほんの小さな日常生活の変化によってそれは可能になります。「放射線の害はあなたしだいでゼロになる!」第9章「あなたしだい!」を参考にしてください。


参照
「放射線の害はあなたしだいでゼロになる!」
 第9章<あなたしだい!>
IV. 被ばくの先の現実の問題
 ここまで被ばくの影響について考えてきました。しかし、被ばくの影響が出るかどうかというのは、スケール上の境界線のところのほんの小さな部分の話ですし、人数的にも10000人中3人くらいの話です。もちろんそれが誰かわからないので実際には被ばくした人みんなが心配することになり、そして境界線から離れる努力をするわけです。ほんの少しの努力をする気になれば、被ばくの害は現れないでしょう。たとえ努力をしなくても、まず現われることはないのですが。
 低線量被ばくの影響の追及はこれで終わりです。自分の力で被ばくの影響を消すことができるという科学的事実を述べました。

 しかし、がんという問題がすべて解決したわけではありません。
 少し冷静に考えると、被ばくの害は逃れたものの、私たちの避けられない現実はそのままあることを思い出します。つまり、半数近くががんになるという現実です。
 多くの方は、被ばくによるがんと普通のがんは区別しており、普通のがんがどのように大きな可能性で私たちを脅かしているとしても、それは仕方ないことというくらいの捉えかたをしています。
 被ばくは実際に被ばくしたことがわかるので過度に心配しますが、日常生活の発がん物質は自覚できないため私たちにはピンとこないだけで、私たちの体の中では50%の人を確実にがんにしてしまう過程が日々進行しているのです。
 私たちが本当に心配しなければならないのは、影響など出ないであろう100mGyくらいの被ばくではなく、この膨大な可能性を持つ普通のがんの進み方なのです。

 どうすれば(普通の)がんにならないで済むか、という途方もない問題に直面するわけですが、V.生物学的根拠「日常生活が被ばくリスクを決める」で詳しく述べているように、がんは日常生活が作るものであり、日常生活によって驚くほど減少させることができるという事実があります。私たちには、絶対にがんにならない方法というのはないかも知れませんが、がんの可能性を何分の一かに減少させる方法はあると言えるのです。  

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