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医療被ばくは医療の一部


医療被ばくリスクは何が問題なのか?
 被ばくの問題は、放射線によってがんという病気になるかどうか、ということです。
これは、「病気の原因が体に作用したときに病気になるかどうか」という、すべての病気に共通の問題です。
 そこで、病気として花粉症を例に考えてみましょう。
 「花粉という原因が作用して、花粉症になるかどうか」です。 平成18年度の実態調査では、東京では28.2%の人が花粉症です。この数値から、「東京に住む人では、花粉症の確率は28%である」ということはできます。では、東京に住む人は、自分は28%の確率で花粉症になるかもしれない、と考えるのでしょうか? そんなことはありません。
 私たちの花粉症の知識は豊富で、アレルギー体質であるかどうか、幼児期の環境がどうだったか、などが重要であることを知っていますし、毎日の食生活や生活環境なども関係していることを知っています。つまり、花粉症になるかどうかには、花粉の量より、こうした私たちの体に関する因子が大きく影響していることを知っているのです。したがって、28%というのは、単なる統計的な計算上の数字であって、個人の生物学的医学的な本当の可能性ではないことを知っています。


 花粉症に限らず、すべての病気に関して同じことが言えます。
原因が同じようにあっても病気になる人とならない人がいますが、それは確率的な偶然ではなく、かならず個人の状況がなるかならないかを決めているのです。メカニズムがわからないときは、“運が悪ければ”というような確率の話になりがちですが、ひとりひとりにでは必ずなるかならないかが生物学的に決まっているのです。つまり個人がどうなるかを考えるときには、確率ではなく、生物学的な状況や理由を考えなければならないのです。
 このようなことは、医療に携わる方には当たり前のことに違いありません。

 では、放射線被ばくの場合はどうでしょうか?
 「放射線という原因が作用して、がんという病気になるかどうか」です。
 花粉症の場合と同様に、全体の調査データがあります。たとえば、「10mGy被ばくしたとき、がんが増加する確率は0.1%である」というようなデータです。この数値から、あなたが10mGy被ばくしたときには、あなたは0.1%の確率でがんになりやすくなると考えますか?
 ここで、病気に関してはプロのあなたも、はたと困ってしまうのではないかと思います。
 花粉症を例に出すまでもなく、普通の病気のなりやすさは、個人レベルで見ると様々であることを知っていますが、放射線の作用の場合にはわからないに違いありません。放射線をウイルスやバクテリアや生活習慣や薬剤などの作用と同じように考えていいのかどうか、わからないからです。
 そのため、放射線は特別に怖いから、みんな同じようにやられるのではないか、個人の違いなんか問題でなく、みんな0.1%の確率になるのではないか、と考えてしまうかも知れません。

 これを読んでいるあなたは、もちろん放射線診療の専門家です。放射線の生体影響は相当に学んできたと思いますが、この問題に対して全く何の知識もありません。なぜなら、あなたが学んできたのは、「現実の人間のがんと放射線の生物学」ではなく、研究のための放射線生物学でしかないからです。
 これまでの被ばく影響、被ばくリスクというのは放射線防護のためのものであり、放射線防護でしか使えないものです。それにもかかわらず、そのリスクが放射線生物学の教科書に掲載されていますし、医療被ばくの参考書に書かれています。
 放射線防護リスクを放射線防護以外の場で使うという間違いが、いたるところでおおなわれていたのです。放射線防護のリスクとは、取り決めのリスクです。放射線管理のために用いる道具として作り出されたものであって、生物学的な本当のリスクではありません。
 医療では「被ばくした人の体の中で本当に何が起こるのか」という生物学的なリスクしか意味がありません。
 用途の問題と考えてもいいでしょう。これまでの被ばくの知識は、医療被ばくの用途には使えないのです。

 現在、医療被ばくの用途でリスクを扱える専門家はいません。研究者やいわゆる専門家の頭の中には“被ばくした個人への生物学的な現実の影響”はありません。
 この言葉の中には、これまで想像すらされなかった多くのキーワードが含まれています。
 「個人への影響」、「生物学的な影響」、「現実の影響」、いずれも放射線生物学や放射線疫学では扱われたことのない概念なのです。したがって、専門家はいないのです。
 

医療従事者が専門家
 この分野の専門家となるべき人は、はもちろんあなた方医療従事者以外にありません。なぜなら、「個人の」「現実の」「生物学的医学的」影響は、医療でしか扱えない内容だからです。
 患者は個人として診なければ医療は成り立ちません。いずれオーダーメイド医療が現実のものになることを考えても、個人の違いは大前提です。もちろん、医療の世界は現実そのものです。こうなるかもしれない、こうなるはずだ、こう考えておこう、などはあり得ません。そして、言うまでもなく扱うものはすべて人間の医学生物学そのものです。
 クローン個体のマウスや細胞の集団でしか考えない放射線生物学の研究者や、統計的なデータ処理の放射線疫学の研究者には、想像するのも難しい内容なのです。
 しかし、医療従事者の方々に研究をしていただく必要はありません。必要なデータ、科学的事実、そしてメカニズム。必要な情報はすべてあります。それを知っていただくこと、それだけが必要なのです。  医療被ばくの影響は、研究ではありません。医療の場で患者に対して実践してはじめて意味があるのです。

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