| 1.医療用放射線の真実 - | ||||||||||||||||||||
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1)医療被ばくは”低線量・低線量率”の被ばくではない a) 線量 1000mGy(=1Gy)を超えるような線量と低い線量では、生体影響は単に線量の違いだけでなく、メカニズムの上でも異なるようだということが分かるようになりました。そこで、高線量のデータをそのまま低線量の被ばくに当てはめるときには注意が必要だとして、 ”低線量”という範囲が決められました(注1)。一般に、100mSvか200mSv以下を低線量と呼んでいます。 |
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| 検査被ばくによる組織吸収線量は、「何か心配ですか?医療被ばく」によると、1回の検査では0.05〜60mGyの範囲にあり、低線量被ばくと言えます。複数回の検査や長期間にわたる合計では100mGyを超えることもあるでしょう。 |
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| b) 線量率 次に、同じ線量でも、線量率(強さ)によって生体影響は大きく異なるため、線量だけでは影響を正しく表すことができません。特に線量が小さくなると線量率の違いが大きく影響しますので、リスクを考える時にはその点を考慮する必要があります。 一般に、同じ線量でも、線量率が小さいと影響は小さくなります。そこで、低線量率という範囲を決めて、その範囲では高線量率の場合より、影響を小さく見積もることにしてあります。 低線量の範囲は、下の表のように定義されていますが、後で述べるように、生物学的な影響がどれくらい変化するかについてはっきりと分かっていませんので、この定義は便宜上のものです。0.1mGy/分(または0.06mGy/分 UNSCEAR)以下と考えればいいでしょう。 |
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さて、検査被ばくはどのような線量率の被ばくでしょうか。検査装置の機種や撮影条件によって変動しますが、検査被ばくの標準的な線量率の範囲は以下のとおりです。 |
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これらから明らかなように、低線量率の境界を0.1mSv/分とするなら、CT、X線撮影は「超高線量率」、透視は「高線量率」、そしてPET・核医学が「低線量率」なのです。 c) 線量率の誤解 検査被ばくの線量率は、誤解されていることが少なくありません。 線量率は、放射線の強さです。撮影条件を設定するときの「管電流mA」が放射線の強さ、つまり線量率を決めます。線量率は、放射線そのものの強さを表していますので、”装置から放射線が出ているときだけ”の問題です。 胃透視では、たとえば8mGy/分の強さの放射線で、約5分間くらい検査をするとすれば、被ばく線量の合計は、8mGyx5分間=40mGyとなります。 線量率というのは、この検査で”被ばくしている5分の間だけ”の問題です。 ある日、CTで20mGyの被ばくをしたからと言って、20mGy/日という線量率にはなりません。これでは単なる被ばくの”記録”です。 被ばくしたのが検査で実際に放射線を受けている5秒の間だけなら、「線量率はその5秒間で考えなければなりません」。20mGy/5秒=240mGy/分というのが、この5秒間の被ばくの線量率です。たとえ1日に3つの検査を続けて受けても、3つの検査でそれぞれの線量率の被ばくをしたというだけです。 たとえば、 (CT検査)40mGy/10秒間 (X線撮影)3mGy/0.2秒間 (X線撮影)0.5mGy/0.1秒間 の3つの検査を受けたとします。この場合、それぞれの検査で 40mGy/10秒=240mGy/分(=4mGy/秒) 3mGy/0.2秒=900mGy/分(=15mGy/秒) 0.5mGy/0.1秒=300mGy/分(=5mGy/秒) という線量率の被ばくを1日の間にした、ということになるのです。 (*これら3つの検査被ばくを1日の間に受けたために何か特別な影響があるかどうかは、“被ばくパターン”の問題であって、線量率とは関係ありません) 線量率という慣れない言葉に惑わされているのかもしれません。 もしこれを検査の「放射線の強さ」といえば、誰でも放射線そのものの強さのことを考えるでしょうから、照射装置が作動して放射線が出ているときだけのことだと分かります。 線量率は被ばく影響を決める極めて重要な因子です。 自然放射線と原爆放射線 ”医療被ばくは、原爆被ばくに非常に近い。自然放射線から非常に遠い” 医療被ばく、特に検査被ばくが危険でないことを説明するときに必ず 「原爆のような大量の被ばくではありません」、 「原爆のように強い放射線を一度に大量に被ばくするのとは違い・・・」 という言い方をします。しかし、本当はどうでしょうか。 a) 線量率スケール 原爆放射線の被ばくは高線量被ばくと言われますが、一般に1000mSvを超えるような場合を指すことが多いでしょう。 確かに原爆被爆者にはこのように大量に被ばくした人々もいましたが、低線量の被ばく者も数多くいます。医療被ばくを怖い被ばくの代名詞である原爆とはかけ離れているのだとの印象付けたいのは分かりますが、事実ではありません。下記の「原爆の被ばくとは?」に述べるように、原爆被爆者はあらゆる線量の被ばくをしました。生存者の65%が100mSv以下の被ばくです。 先ほど求めた、検査被ばくの線量率を概観するために、いろいろな被ばくを線量と線量率で表しました(図1)。 |
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私たちの知っているもっとも弱い放射線は自然放射線で、もっとも強い放射線は原爆の放射線です。実はこれらの放射線は、線量率(放射線の強さ)では約1兆倍の違いがあります。あまりに大きな違いなので普通の図で表すことができません。そこでこれらをひとつの図に表すために、線量率の横軸を対数メモリにしてあります。左のほうでは、1メモリが、「10」ですが、右では「9000億」になっていますので、大きさの違いを実感するのは難しいかと思いますが、想像力を働かせてみてください。 縦軸は線量です。検査で問題になるのは、だいたい10mGyから100mGyです。私たちは線量でしか被ばくを考えてきませんでしたので、縦軸の位置しか見ませんが、それぞれの被ばくを線量率で見ると全く異なった被ばくの内容が見えてきます。これほど大きな違いがあるのです。放射線の生体影響では、線量率の違いは非常に重要な因子なのです。 |
参照「放射線の影響はあなたしだい」 第12章p226 線量率 |
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本当の生物学的な影響を考えるときには、線量と線量率の両方を考慮しなければなりません。 検査被ばく(赤)の位置を見てみると、他の被ばくとはかけ離れて、右側に寄っているのがわかります。特にX線撮影やCTなどの被ばくは、低線量の原爆被ばくに接しています。これら検査被ばくの100倍から1000倍くらいの線量率のところに原爆の数mSvから数十mSvの被ばくがあるのです。原爆被ばくは、p 「原爆被ばくとはどんな被ばくか?」で述べているように、被ばく時間が一定ですから線量率と線量とは比例しており、被ばくした人々はこの線上にあります。 ごく一般的な放射線検査が、実は超高線量率の放射線を用いていることが分かります。 CT機器の技術は年々進歩し、より早く、より確かな、より多くの情報をということで、開発が進んでいますが、スキャン時間の短縮とより多い情報を求めて、より線量率の高いCT検査となり、ますます原爆被ばくに近づいています。透視では一般に低い線量率の放射線で行われます。透視の中でもIVRでは高めの線量率を使いますし、何よりも被ばく時間が非常に長いため線量が1000mGy(=1Gy)を超えることも珍しくありません。さらに透視中の撮影時には一般X線撮影より高めの線量率の放射線を使います。 一方、PET・核医学検査では、被ばく線量率はかなり小さいことがわかります。核種の崩壊によって放出される放射線を利用したものですが、低線量率(の定義)の上限付近の線量率になっています。自然放射線も核種の崩壊による放射線なのですが、核医学で使われる人工のの放射性検査薬に比べて、大地にある核種の密度が低く、また人体までの距離があるために、線量率が極端に小さな放射線となっています。 私たちが一般に日常生活で受ける放射線というときには、環境から受ける放射線、仕事上の業務、あるいは検査で受ける放射線のことを言います。業務上被ばくする職種とは、医療放射線従事者、原子力関連施設従業員、航空機乗務員、そして産業利用の放射線従事者です。これら従事者の中で、放射線技師や放射線科医は、かつてはもっとも多くの被ばくをした職種でした(「あなたしだい」参照)。しかし近年は防護が確立して、むしろ被ばく線量の少ない職種となっています。医療放射線従事者の被ばくは、一般に線量率の低い被ばくです。低いとは言え、自然放射線などよりは線量率の高い被ばくですので、影響はどうか気になるところですが、詳細はそれぞれの項目をご覧下さい。 医療被ばくが危険でないことを説明するときに、原爆が危険な被ばくの代名詞だとすれば、安全な被ばくの代表選手として自然放射線を取り上げることが多いようです。 「X線撮影の2mGyという線量は、私たちが毎日被ばくしている自然放射線と同じくらい」 「世界には年間10mSvも受けて何十年も生活している人々がいる。そしてがんなどの問題は発生していない」 という説明が多いようです。 確かに線量だけの比較ではそうなりますが、X線撮影は約10臆倍“強い”放射線を使っているのです! 自然放射線の年間1・5mSv(世界平均では2・4mSv)の被ばくも、X線撮影の0.1秒の間の1・5mGyの被ばくも、現実にはどちらも影響はないでしょう。しかし、それは結果として影響が出ないということであって、両者が比較できる被ばくであるということにはなりません。医療被ばくは、自然放射線被ばくとはまったく異なる次元の被ばくです。 線量率で10億倍の違いというのが、そのまま影響の大きさの違いになるわけではありませんが(p 線量率はなぜ重要か 参照)、これだけ線量率が異なる場合、線量だけの比較で影響を議論してもほとんど意味はありません。 b) 医療用放射線は原爆放射線に近い ともに超高線量率である原爆被ばくと検査被ばくの影響は近いのでしょうか。 (1) 遺伝子の傷の程度に関しては、電離密度、そしてヒドロキシルラジカルの密度が大きく影響する。原爆で1/1000秒の間にできても、X線撮影で0.02秒の間にできても、またCTで10秒の間にできても、傷を修復する酵素が働き始める前に傷は全部できてしまうので、傷のタイプや深刻さ、そして修復の困難度は同じ、つまり生体影響としては同じと考えられる。 (2) 傷の修復に関しては、遺伝子に傷ができてから、修復酵素が働き始めるまでには「分」単位の時間がかかり、修復が終わるまでには「時間」単位の時間がかかる。CTやX線撮影、そして原爆など線量率が高い場合には、修復酵素が働く前にすべての傷ができてしまうので、修復の効率やミスの起こりやすさは同じになるだろう。 (3) 広島の原爆では中性子が混在している。この影響があるために原爆と医療放射線は違っているといわれることがあるが、爆心地から2kmの地点で中性子の混在は0.2%に過ぎず、中性子線のRBEをたとえ10〜100まで変化させても、線量に換算してせいぜい20%くらいの違いにしかならない。また原爆生存者の疫学データは長崎の被爆者との合計で調査を行っているので、この広島の中性子の影響はせいぜい線量に換算しても10数%くらいにしかならない。調査データではこの点も考慮されているので、そのまま比較することが可能だろう。 (4) 線量評価の正確さに関して、爆発による直接被ばくだけでなく、その後爆心地付近に戻った人々がフォールアウトや放射化された物質からの被ばくを受けていたはずだとの意見があるが、爆発1日後に爆心地に入り、その後そこに留まった場合、広島では190mGy、長崎では55mGyの被ばく線量が見積もられる。この線量の大半は、1日目の被ばくであり、数日以内に主な被ばくは終了する。入市が1日遅くなるごとに前日の数分の1〜10分の1の被ばく線量になる。一方、線量率では、1日後広島で0.1mGy/分、長崎で0.07mGy/分であり、すでに低線量率被ばくとなっている。そして1週間後にはこれらの値の1/1000にまで低下している。このように考えると、爆心地に1日後あるいは2日後に戻った人々の平均的な被ばくは、広島で数十mGy、長崎で10〜20mGy程度の低線量率被ばくであったと考えられる。この低線量率被ばくを爆発時の超高線量率被ばくに単純に加算することはできない。チャートからはこの被ばくによる影響はほとんど考慮しなくていいと思われる。 これらの根拠から、放射線検査で用いられる放射線は、生体影響という観点からは、原爆放射線に非常に近いと考えられます。 |
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2.被ばくの生体影響の考え方とデータ 1)被ばくの影響を決める要素 放射線被ばくによる生体影響は、「放射線側の条件」と「人間側の条件」とが作用しあって、最終的に決まります(図 参照。人間側の条件を考慮しなければ本当の影響は分かりませんが、ここでは影響の大きな枠組みとして、人間側の条件は同じとして考えます)。 放射線の質は、 1) 線種 2) 線量 3) 線量率 で決まります。そしてこのような質の放射線をどのように被ばくするかという 4) 被ばくパターン をあわせて、被ばく影響の「放射線側の条件」が決まります。 医療被ばくでは、線種はほとんどがX線ですので、これは同じです。そして1回の検査では、どんな検査でも被ばくパターンは「1回の被ばく」ですから、これも同じです。したがって、いろいろな検査がありますが、検査1回の被ばくの生体影響の違いを生み出すのは、線量と線量率ということになります。(ここでは、被ばくする人間側の条件は考えません) 線量率が生体影響にとって重要な理由は2つあります。 理由1)これが細胞での電離密度を決め、ヒドロキシルラジカルの密度を決めることになるからです。(電離密度と細胞傷害はp 参照)電離密度が高く、ヒドロキシルラジカルの密度が高い場合には、遺伝子の傷が深刻になります。修復しにくい傷もできやすくなりますし、修復ミスも多くなります。これらはすべて突然変異の発生に結びつくものですから、線量率は生体影響に直接関係します。 理由2)線量率によって防御機能の作用の効率が変わります。細胞はある量の抗酸化物質(酵素)や修復酵素などの防御機能を備えていますが、線量率が大きいときには、短時間に多くの活性酸素が発生したり、遺伝子に多くの傷ができる場合には、防御が間に合わなくなります。もしゆっくりできるなら、常備している防御機能で間に合い、傷の発生も効率良く防ぐことができ、ミスが少ない修復ができるでしょう。 このような理由で、同じ線量でも線量率が違うと影響が大きく違ってきます。これが生物学的な事実ですが、実際にはどれくらいの線量率の違いがどれくらいの影響の違いになるのかは、データが少なく、ほんの一部しか分かっていません(注2)。 2)低線量率の被ばくの影響の見積もり 線量率は重要であることは生物学的に確かですから、被ばくリスクを考えるときには線量率の影響を考慮しなければなりません。 基本的な考え方は、「線量率が小さく、活性酸素やそれによる傷が”ゆっくり”できるときには、防御機能が効率良く働いて害を防ぐことができ、結果としての影響は小さくなる」ということです。そして、さらにゆっくりできるときには、さらに完全に近く防ぐことができる可能性(しきい値)も考えられますが、証拠はありません。現時点ではこれ以上は議論を進めることはできませんので、これらの事実から、それぞれの立場で”現実的な”考え方を決めることになります。 (ICRPなど放射線防護の考え方) 放射線防護では、“低線量で、低線量率の範囲にある被ばくの場合には、同じ線量で高線量率の被ばくの影響の1/2にする” としています。図2では、低線量(100mGy以下)で、低線量率(0・1mGy/分)以下の領域(左下)の被ばくは、右側の同じ線量の被ばくの1/2のリスクにするということです(図中aとb)。これは低線量率の境界をまたぐ場合の話で、高線量率(図中のc)や高線量(図中のx、y)の範囲ではこのような割引はせず、線量率がどんなに違っていてもリスクの大きさは同じということにしてあります。 |
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これは、放射線防護の公式として使う際の実用性を第一に考慮した考え方です。 (生物学的に確からしいこと) では、生物学的に正しい線量率の影響の大きさはどれくらいでしょうか。 低線量率で影響がどれくらい小さくなるのかは、どんな影響を見るのか(遺伝子の突然変異の発生、染色体の異常の発生、細胞死の発生、細胞の形質転換の発生、動物でのがんの発生など)で違いますし、どんな遺伝子、細胞、動物で影響を見るのか、そしてどれくらいの線量率の違いを比較するのかによっても違います。現在あるデータの中では小さくなる程度は1/1〜1/20くらいです(この中でICRPは1/2を選びました)。しかし、これはほんの限られた範囲の線量率間の比較の実験データであり、非常な高線量率や低線量率ではもっと大きな違いになっている可能性もあるのですが、どれくらいなのかはわかりません。このようにデータが乏しいために、はっきりと数値で表すことはできませんが、次のことは言えるようです。 1)「(超)高線量率の被ばくでは、線量率の違いによる影響の違いは小さい。」 → 原爆とCT・X線単純撮影などは、被ばくとして近いと考えられる。 2)「低線量率の被ばくでは、超高線量率の影響よりもはるかに小さい。」 (放射線防護で決めている1/2ではなく、実際には1/10、1/20、 1/100・・・くらいかもしれない) → PET・核医学の患者、医療従事者などの被ばく影響は、ほとんど考えな くていいだろう。 たとえば低線量率で20mGyの被ばくをしたときのリスクは、ICRPでは原爆リスクの1/2ですが、生物学的に確からしいところでは、1/20かも知れませんし、1/200かも知れないのです。本当の数値は誰にも分からないのですが、かなり小さいことは確かでしょう。 |
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線量率が小さくなると影響が大幅に小さくなる例として、平均的な自然放射線の10倍以上の放射線のある環境で暮らしている人々の場合、生涯の被ばく線量は1000mGy(1Gy)に近くなりますが、がんの発生が多いということはありません。 |
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この二つの考え方のどちらも必要で、用途に応じて使い分けなければならないのです。 3.医療被ばくのパターンと影響 医療被ばくで問題になることが多いのは、複数回の被ばくです。複数回の被ばくの生物学的な影響ではどのようなことが考えられるのかを見てみましょう。 1)被ばくの影響の考え方 言葉で“被ばく影響”と言っても、生物学的な内容はさまざまです。一般にがんになるかどうか、が影響の意味ですが、その生物学的なしくみはほとんど知られていません。 検査で被ばくした場合の最終的な生物学的な影響、つまり将来がんになるかどうかというのは、 “被ばく影響チャート”で最終的にどの位置になるのかということです(「IV. 低線量被ばくとがんの生物学」 に詳細が述べられています)。しかし、そこに至るまでには3つの要素があります。“作用の大きさ”“被ばくの影響(突然変異)”と“被ばくの影響(発がん)”です。 @まず、その被ばくの作用の大きさというものがあります。どんな被ばくでも、そのつど遺伝子の近くで多数の電離が起こり、それによっておそらく遺伝子に傷はできるでしょう。これが“被ばくの作用”です。したがって、かならず何らかの被ばくの作用はあります(まだ影響という段階ではありませんので、作用としています)。それを矢印で表しています。矢印は左(がんの方向)を向いて、それだけがんに近づいたことを表しています。個人差があるため、矢印の大きさは人それぞれですが、必ず矢印はつきます。しかし、この矢印で表される“被ばくの作用”は、ほとんどの場合、防御機能によって消去され、防御され、問題になりません。その場合、元通りになりますので、影響はなかったことになります。被ばくしなかったのと同じです。(作用はあったが、突然変異に結びつくほどの影響にはならなかったという意味で、矢印は突然変異1個分より小さく表します) Aしかし、中にはタイミングやいろいろな状況で、修復や消去されずに突然変異ができるのに協力してしまうことがあります。(その場合には矢印は突然変異1個分を超える大きさで表しています) その場合には、“被ばくの影響(突然変異)”があったといえます。しかし、影響があったとは言え、突然変異を1個増やしただけという段階です(検査被ばくでは、そのようなことはまず起こりませんが)。この段階では、まだがんに結びつくような影響かどうかわかりません。 Bそうしてできた突然変異が加わったせいでがんになるかどうかがわかるのは、人生の終わり頃です。もし、その突然変異が加わったせいでがんになったとすれば、 “被ばくの影響(発がん)”があったということになります。(ただ、現実にはがんになってもそれに過去の被ばくの影響があるのかどうかは、分かりません) このように、被ばくの作用や影響があるとしても、それがどの段階の影響なのかが問題です。 2)1回の検査の被ばくの影響 さて、1回の検査の影響をもっと具体的に見てみましょう。 検査被ばくは0.05秒〜数分くらいで終わります。電離や活性酸素によって遺伝子に傷ができるとすれば、この間です。検査が終わったときには検査を受けた部位の細胞の遺伝子に傷ができているでしょう。その後、分単位で修復酵素が活性化されて、修復を始めます。数時間から半日くらいでほぼ修復は終わります。検査被ばくの影響は、ほとんどの場合、この段階で完全に修復がおこなわれて、問題は残らないでしょう。しかし、このとき運悪く細胞分裂と重なったりすると、修復にミスが起こって、突然変異ができることもあります。したがって、たいていは被ばく後1日以内にその被ばくが何の影響も残さないか、突然変異が1個できたかのどちらかの結果になっています(しかし、私たちには分かりません)。 もし突然変異が1個できているとすれば、その突然変異ががんに結びつくかどうかは人生の終盤に決定されます(しかし、私たちには分かりません)。 被ばくの影響が残る、残らないとよく言われますが、この被ばく後1日くらいの間に突然変異ができるかどうか、というのが、その生物学的な内容でしょう。 3)複数回の検査被ばくの影響 a) 被ばくの間隔が、2日以上あいている場合 検査は、何日か何週、何ヶ月の間を空けておこなわれることが多いでしょう。年に一度ということも少なくありません。そのような場合には、上で述べたように1回の検査の影響は1日くらいで決着がつきますので、前の検査に影響されませんし、その後の検査には影響しないことになります。検査と検査の間隔がどれくらいであろうと、関係ありません。 この場合、それぞれの検査の影響は別個に考えて、そして全体の影響としてはそれらを全部合計することになります。影響のない場合は、何回分足しても影響はゼロです。検査被ばくの具体的なリスク評価は、「III. 科学的事実」で詳細に検討しています。 b) 被ばくの間隔が、2日以内の場合 時間的に接近して検査を受ける場合には、それぞれの検査の作用が影響しあう場合があるかもしれません。ただ、データがないために、実際に検査被ばくで人間の細胞の中で起こるのかどうかはわかりませんが、可能性として考えてみましょう。前の被ばくによって細胞内で何が起こっているかが問題になります。「低線量放射線の作用の全体像」を参照してください。 被ばくによる主な応答は、 1) 遺伝子の傷の修復(被ばく後、数分から半日の間) 2) いろいろな抗酸化的防御物質(酵素)の発現(適応応答) 3) p53などの発現(適応応答) 4) 細胞分裂の促進(被ばく後、1〜2日の間?) などです。 前の被ばくによってこれらが起こるかもしれませんが、少し現実的に考えるとこれらのうち検査放射線で起こる可能性のあるものは、1)と4)です。2)と3)の適応応答は、現在実験的に分かっている範囲では、約200mGy以上の被ばくでなければ検出できません。細胞の危機的状況に対する応答ですから、相当な線量が必要なのでしょう。(ホルミシス説では、被ばくによる抗酸化酵素の発現によって被ばくの影響を軽減できるとしていますが、線量の点からも、またタイミングの点からも非現実的でしょう) したがって、次の被ばくの時点では、「細胞内では遺伝子の修復」がおこなわれており、「細胞分裂が促進されている」可能性があります。 細胞内では日常的にいつでも遺伝子の修復がおこなわれていますので、どんなときに被ばくしても同じことで、特別なことではないでしょう。特別に突然変異を促進するとか、抑制するような作用は見当たりません。 一方、細胞分裂の促進は、日常的なこととは言えない放射線の特徴的な作用です(細胞分裂は女性ホルモンや放射線などの発がん物質としての作用です)。前の被ばくによって細胞分裂が促進されている時に被ばくして遺伝子に新しい傷ができると、修復のミスが起こりやすく、突然変異ができやすい状況になります。体のどこの細胞が分裂を促進されるのか、どの程度促進されるのかはわかりませんので、可能性の大きさに関しては全くわかりません。 遺伝子の突然変異ができやすくなるかという観点では、1〜2日の間に複数回の被ばくをする場合、現在の知見からは、可能性としては考えることはできるでしょう。 |
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