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被ばくリスクの用途は大きく分けて、「放射線防護のため」と「生物学的な現実のため」があります。簡単に言うと、放射線防護の被ばくリスクとは、社会の<集団>が被ばくしたときにどれくらいの被害が出るかという問題です。生物学的な現実のための被ばくリスクとは、被ばくした<個人>が将来がんになるかどうか、という問題です。現在一般に被ばくリスクと言えば、直線仮説を基にした放射線防護のリスクを指すことが多いようですが、それは単なる習慣に過ぎません。
放射線防護は社会の運営には欠かせない重要なものですが、「100mGy以下ではリスクがあるかどうか不明」というのでは成り立ちません。管理するためにははっきりした数値が必要なのです。そこで、たとえ仮説であっても、放射線防護に使えるようなリスクを決めておくのです。ちょうど制限速度のようなものです。
一方、医療被ばくで問題になるのは個人の現実の生物学的ながんの可能性ですから、仮定の上に成り立っている話では意味がありません。したがって、ICRPにしたがって医療被ばくのリスクを計算するのは大きな間違いです。
どちらが良い悪いではなく、用途の問題です。 |
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ICRPは、放射線防護のための道具として、直線仮説に基づいた被ばくリスクの考え方と公式を考案しました。直線仮説/直線モデルは生物学的な仮説であるかのように誤解されていますが、放射線防護の考え方として生み出されたものです。ICRP2007勧告では、以下のようにその用途を明確に定めています。 |
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パラグラフ66
「しかし、LNTモデルは放射線防護の実用的な体系で使われるものとしては科学的なもっともらしさは備えているが、これをはっきりと証明できる生物学的・疫学的な証拠は今後現われそうもない。このモデルの低線量でのリスクには不確かさがあるので、委員会は、LNTモデルを一般公衆の健康上の見積もり(がん死亡の見積もりなど)の目的で、大きな集団が低線量の被ばくを長い期間にわたって受けた場合の、がんや遺伝病の発生数などの計算に用いるべきではないと考えている。」 |
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2004年のLancet掲載論文をはじめとする医療被ばくによるがん死亡者の見積もりにLNTモデルを使用する風潮に対して釘を刺す目的で、改めて直線モデルの位置づけを明言しています。
LNTモデルは、単なるリスクの計算方法ではありません。放射線防護で使用する目的で作られたもので、その目的以外には使ってはいけないものです。 |
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ICRPは、放射線に関する行政、つまり放射線防護の枠組みを策定する国際的な権威ですが、学術的な組織ではありません。
また、図(⇒)に示したように、ICRPの他にもいくつかの、いわゆる権威的な組織団体が意見を主張しあっていますが、いずれも生物学分野の専門の学会組織ではなく、自然科学分野の行政的な意味合いの強い団体です。したがって、核・原子力行政に大きな影響を及ぼす低線量被ばくリスクに関するそれら団体の主張は、行政的な観点からおこなわれることになります。
したがって、放射線防護上のリスクを問題にするなら、ICRPの勧告に従えばいいでしょう。しかし、生物学的にがんになるかどうかという現実は扱いません。権威の名のもとになされる社会的行政的な主張と、生物学的な真実とを混同しないようにしましょう。
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